【特集】市川十億衛門 インタビュー
1. 市川十億衛門のプロフィール
大阪府出身。
脚本家、放送作家。
市川十億衛門の主な仕事
脚本家
アニメ 『進化の実〜知らないうちに勝ち組人生〜』 シリーズ構成、脚本
アニメ 『ゲゲゲの鬼太郎』 脚本
アニメ 『けだまのゴンじろー』 シリーズ構成、脚本
アニメ 『デュエル・マスターズ』 脚本
アニメ 『ぷっちみく♪ D4DJ Petit Mix』 脚本
アニメ 『BanG Dream! ガルパ☆ピコ ふぃーばー!』 脚本
アニメ 『ポチっと発明 ピカちんキット』 アニメパート&実写パート、脚本
アニメ 『爆釣りバーハンター』 脚本
ゲーム 『タベオウジャ』 シナリオ
ゲーム 『ファントムオブキル』 シナリオ
ゲーム 『誰ガ為のアルケミスト』 シナリオ
小説 『ゲゲゲの鬼太郎 ~朱の音~』
怨ライン奇譚・鬼太郎の『だから言ったじゃないか』シリーズ1~5 執筆
放送作家
NHK 『東京2020 パラリンピック 競技紹介』 構成
NHK Eテレ 『シャキーン!』 構成
NHK 『高校講座』 オリエンテーション番組 構成
『刀剣乱舞 おっきいこんのすけの刀剣散歩 弐』 構成
『刀剣乱舞 おっきいこんのすけの刀剣散歩〜でらっくす〜』 構成
『刀剣乱舞 おっきいこんのすけの刀剣散歩』 構成
2. どのようにして放送作家になったのか
22歳くらいの時、役者を志し上京。 演劇活動をする中で、現在脚本家として活躍されているピエール杉浦さん(現・Pita代表)や、ますもとたくやさんという先輩方と出会いました。
30歳を目前にした時、役者の仕事でメシを食っていくのは無理だ……と思い、当時すでに脚本家や放送作家として活動されていた杉浦さんとますもとさんに「どんなことでもいいので、お仕事のお手伝いをさせてください!」と頼み込みました。 当時、演劇の脚本を書いたことはなかったのですが、コントユニットを立ち上げた時にコントの脚本は書いていました。 それを見に来て下さった杉浦さん、ますもとさんが「面白かったよ」と言って下さっていたので、藁にも縋る思いで頼み込みました。 それがエンタメ業界で活動できるラストチャンスだと思っていました。
その頃、杉浦さんはNHK Eテレの小学生向け教育番組「シャキーン!」に参加していらっしゃって、そのネタ出しからスタートし、私も番組台本を書く構成作家になることが出来ました。
脚本家になったきっかけは?
ますもとさんからドラマのプロット出しを頼まれ、運良くそれが通り、脚本家としてデビューすることができました。
ドラマのプロデューサーさんは今やゲーム業界の売れっ子Pになってらっしゃって、もう何年もゲームシナリオのご依頼を頂いています。
デビューは30分ドラマの脚本だったのですが、そこから数年はテレビ番組の構成作家の仕事がメインでした。 そんな時、現在Pita所属の作家・永野たかひろさんから「今、アニメの脚本家を探してるんですが、ギガさんどうですか?」と誘って頂きました。
小学生男児向けのドタバタギャグアニメだったのですが、私の作風に合っていたのか、そこからはたくさんのギャグアニメに携わらせて頂くことになりました。
それがきっかけでギャグ以外の作品にも読んで頂くようになり、今はアニメシナリオの仕事をメインにやらせてもらっています。
あの時、永野さんのお誘いがなければ、今の僕は無かったと思っています。
アニメ「けだまのゴンじろー」について
アニメ脚本家としてキャリアを重ねるうちに、初めてシリーズ構成としてお声掛け頂いた作品が「けだまのゴンじろー」でした。
毛玉でできた不思議な生物「ゴンじろー」や、周辺のキャラは決まっていたのですが、お話の根幹部分はこれから考えたいです…というタイミングで呼んで頂きました。
それまでは各話で好きに書いていたのですが、初めてシリーズ全体のことを考え、1年間51話の構成を考えました。 また玩具が出る作品でもあったので、発売時期と照らし合わせて、その商品がどんな風にカッコよく出るお話を作るか…なども考えました。お話の中身以外のことを考えた作品は初めてだったので、やはり私にとって特別な作品になっています。
基本ドタバタギャグなんですが、暑苦しいけど優しいゴンじろーを見て、子どもたちも優しい気持ちを持ってもらいたいなぁと思っていました。あとは、作り手の大人たちが真剣にふざける姿を見て、自分も面白い仕事に就きたい、楽しい人生を送りたい!とまで思ってくれたら最高だなと思いながら、全力で駆け抜けた記憶があります。
アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」について
「爆釣バーハンター」という作品でご一緒させて頂いた東映のプロデューサーさんに呼んで頂き、第6期と呼ばれる鬼太郎の脚本を5話ほど書かせて頂きました。 驚いたのは、これまで携わらせて頂いた作品と違い、50年以上の歴史を持つ作品なので、とても多くの根強いファンがいらっしゃるということ。 なので、水木しげる先生の作品を汚すことなく、現代に合ったストーリーに仕上げ、初見の方にもファンの方達にも喜んで頂けるように心血を注ぎました(もちろん私自身が面白い!と思える話を生むことが大前提です)。
鬼太郎は映画も控えており、今もイベント等が行われる大人気作品です。 先日、イベント内のショート朗読劇のシナリオを書かせて頂いたのですが、お客さんが目の前で盛り上がって下さるのはとても嬉しく、有難いことでした。 アニメシナリオは脱稿してしまうと、視聴者さんがどんなリアクションなのかはダイレクトには分からないので。 また、初めてのシリーズ構成の仕事を受けるか迷っていた時、プロデューサーさんから頂いた「全員の作家に打席がまわってくるわけではないし、空振り三振になってもいいからまずはバッターボックスに立ってやってみたらいいんじゃない。」という言葉が今でも心に残っています。 背中を押してもらえた気がしてとても励みになっています。 偉大な国民的アニメに携わらせて頂いた経験は、私にとって大変貴重なものになりました。
3. 脚本家として
2009年、「偉人の来る部屋」(TOKYO MX)というドラマでデビューしました。 その現場で現在Pitaに所属している日高勝郎さん、永野たかひろさんと出会いました。
それ以来、テレビ番組(教育・バラエティ・娯楽など)の構成、イベントの構成、ライブの構成、企業系VPの構成、YouTube動画(番組)の構成、ゲームの脚本、アニメの脚本など、あれやこれやとやらせて頂いております。
脚本家としてのやりがいは?
やっぱり作品が世に出て、見てくれた人が「面白い!」とリアクション下さった時です。 大袈裟に言うと、その人の人生に何かしら影響を与えられたら素敵だなと思います。 私自身も過去に3回、そういった経験をして、エンタメの業界に飛びこみましたので。 その3つは、映画「バックトゥザフューチャー」、漫画「寄生獣」、演劇「惑星ピスタチオ作品」です。 心が動かされるほど、「面白い! 何なんだ、これは!?」と衝撃を受けたのを覚えています。 自分が書いたもので、誰か一人でもそんな風に感じてくれたらと思い、作品に取り組んでいます。
NHK Eテレ「シャキーン!」という教育番組に携わらせて頂いて以降、アニメも子ども向けのものを多くやっているので、作品を見てくれた子どもたちの未来が、少しでも明るいものになってくれたら最高です。
大事にしていることは?
変な言い方ですが、初稿を提出する時は「怒られるくらいのものを出そう」と心がけています。 これは、「OKが出そうな小さくまとまったもの」ではなく、「怒られるかも知れんが振り切れたものを出したい!」という意味です。 でも、なかなか実践するのは難しいです。 人間、やはり怒られたくはないので……汗
困難の乗り越え方
放送作家になりたての頃、「この業界、いちいち怒ったり、ヘコんだりしてたら、やっていけないな…」と思ったことがありました。人間なので、書いたものにダメ出しされるのは、正直辛いです。 まして物書きになろうなんて人間は、繊細で傷つきやすいタイプが多いのではないかと思います。 なので、いちいち怒らず、ヘコまず、怪我した後のかさぶたの如く、心を分厚くしていったところもあるかも知れません。
10年ほどキャリアを重ねた今では、大変な発注が来たら、「来週の自分が何とかするだろう…」と変に気負わず、受け流すことができるようになりました。 それが良い事か、悪い事かは分かりませんが……汗
追い込まれる前に周りの人に話したりして先手を打つようにもしています。特に杉浦さんには色々と話を聞いてもらってますね。
今何かを目指している人はきっと、自分に才能が無いんじゃないかと不安になるかもしれないけど、僕自身もそれは同じでした。 でも自分なりのやり方を見つけてやっていったら、才能があろうがなかろうが何とか仕事としてはやっていけるんじゃないかと思います。
4. 株式会社Pitaについて
演劇時代からお世話になっていたピエール杉浦さんが作家の会社を立ち上げる!ということで、その創設メンバーとしてお声がけ頂きました。 杉浦さんは作家以外にも、ビジネスマンとしての脳もお持ちのとてもバイタリティ溢れる方なので、「是非!」と即決で入れて頂きました。
株式会社Pitaでの働き方
杉浦さんは「今、この人は忙しそうで手が回らなそうだな」とか「今、この人、仕事が少なそうだな」などちゃんと見て、仕事を割り振ったりもして下さるので、そういった部分もとても有難いです。
せっかく声を掛けて頂いたお仕事がなかなか上手くいっていない時も、ちゃんと相談に乗ってケアして下さるので、精神的にも助けて頂いています。
また、お仕事先から「誰かいい作家さんを紹介して頂けませんか?」とお声がけ頂いた時も、Pitaにはそれぞれ得意分野の違う作家たちが在籍しているので、とても相談しやすいです。
株式会社Pitaのメンバー
Pita立ち上げの時、「シャキーン!」で一緒だった佐藤慎司さんもいらっしゃったので、とても心強かったです。
佐藤さんとはPTAに在籍してからも、よく一緒に仕事させて頂いています。
作家としてのフットワークが軽く、私と同じように「初稿は振り切ったものを出す!」タイプの作家さんだと思うので、現場にいて下さるととても楽しいです。
日高勝郎さん、永野たかひろさんは私がデビューした時にご一緒させて頂いた作家さんたちです。 日高さんは熱い話、永野さんはギャグ話が得意とタイプが違うので、同じタイトルに同席させてもらうとテイストが分かれて、作品の幅が広がります。 お二人とも先輩(年上)ですが、年齢も近いので悩み事や不安事が共有できて、それがまた有難いです。
株式会社Pitaに入って良かったこと
やはり、Pitaに入らなければ出会えなかったであろう作家さんたちとたくさん出会えたことです。
今はコロナ禍で難しいですが、それ以前はたまに集まって交流会的に飲ませてもらったりもしていて。
そこで、ジャンルの違う作家さんのお話を聞けるのはとても面白く、刺激的です。
それに、年代の違う作家さんたちと出会えたのも大きいです。自分より若い世代の作家さんたちと話すと、新たな発見があり、そして元気を貰えます。まだまだ若いもんには負けん!という気持ちにもさせても貰えます。
印象的だったのは、コロナ禍が始まり1年ほどが経った時、我々世代(40代以上)のおじさん作家たちは人と会えなくなって(飲みに行けなくなって)、軒並み元気をなくしてたのですが、20代の若い作家さんたちはこれまで持てなかった自分の時間を持ち、生活を充実させていました。 それを見た時、「おじさんも頑張らな!」と本当に元気を貰いました。
5.今後の目標
先にも述べましたが、「子どもたちの未来に影響を与えられる」作品を生むことです。 昔からぼんやりと考え続けているのは、「子どもたちの美徳感情が育つ」番組。説教くさくならず、楽しく倫理観や道徳心を養えるような番組が作れたらなぁと思っています。
楽しいことや面白いことに夢中になっていたら、他人の悪口を言ったり、イジメたりしてる時間なんて無い…番組を見て、そんな子どもたちが増えてくれたら、世界はもっと面白くなる気がしています。
今後の活動
現在、男児向けアニメ以外にも、女児向けのとても可愛いらしいアニメや、女性向けのラブコメや青春ものアニメのシナリオを書かせて頂いています。 正直、自分には向いているのか不安だったのですが、声を掛けて下さる方がいるのはとても有難いことなので、一生懸命チャレンジしております。 自分でも意外だったのですが、どの作品もとても楽しく書かせてもらっています。
自分はこれが得意だ、こういう作品は向かない…など、決めつけずにチャレンジすれば、新しい発見があるものだなと40歳を過ぎた今でも感じます。
なので、これからもチャンスに恵まれれば、色んなことにどんどんチャレンジしていきたいと思っています。
6. インタビューをさせていただいて
今回は市川十億衛門さんからどのようにして脚本家・構成作家になったのかをお伺いしました。 「僕は脚本について専門的な知識があるわけではないので...。」と謙遜する一方で、「作品を観てくれた人に喜んでもらうのが一番です。子ども向け番組ではその番組を観た子どもたちに何か一つでも学びがあれば。」と熱く語る場面も。 また、「自分の才能に自信が無くても自分なりのやり方を見つけてやっていったらいいんじゃないか。」というお話は夢を目指す人々にとって希望の言葉になったのではないでしょうか。アニメ脚本、ゲームシナリオ、子ども向け番組など様々なジャンルに挑戦する市川さんに今後も注目です。
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